「生物とコラボする」(工藤律子)

これ1冊で中学校から高校理科への橋渡しができる

「生物とコラボする」(工藤律子)岩波ジュニア新書

デンプンでお皿を作る。
そうすれば料理を食べたあとに
お皿もばりばり食べられる!?
そんな生物由来のプラスチックは
未来をどう変えてくれるのだろう?

プラスチックの普及は
人間生活をこの上ないほど
便利なものにしました。
飲料水容器のPET
(ポリエチレンテレフタラート)、
ビニール袋に使用されるポリエチレン、
衣料品原料のポリエステル、
そのほかにポリスチレン、
ポリプロピレン、塩化ビニルなど、
挙げていけばきりがありません。

軽くて丈夫であるという
それらの長所は同時に、
腐らず自然に還ることがないという
決定的な短所でもあるのです。
また、非再生エネルギーである
化石燃料から生みだされることも
問題となっています。

本書はそれらを解決するための
ひとつの解答としての
バイオ・プラスチックに焦点を当て、
その開発から現在の研究の状況について
詳細に解説されています。
本書を読めば、
まさにバイオ・プラスチックの
最前線を理解できるといえるでしょう。

しかし本書の特徴は
それだけではありません。
本書の最大の特徴は
中学生の発達段階を考慮して、
用語や説明が
教科書の内容を踏まえたような
丁寧な記述に
終始していることなのです。

例えば8P「デンプンは高分子化合物」。
原子、分子、高分子について
順を追って説明されています。
それは「高分子」が
中学校の扱わない概念だからです。
そのため中学校で取り扱う
「ブドウ糖」を例に挙げ、
「原子」「分子」の説明をし、
その上で「高分子」に
結びつけているのです。

30P「酸化と還元」。
生分解性の説明の前に、
中2の教科書でおなじみの
酸化銅の酸化還元反応について
解説しています。
これによって生分解が
どんな反応であるかが
中学生でも理解できるように
なっているのです。

71P「ミドリムシから
つくられるプラスチック」。
やはりミドリムシとはどんな生物か、
種子植物・シダ植物・コケ植物との
位置付けから説明されています。

本書の前半部で
中学校理科の学習内容を振り返り、
後半部の高校化学基礎・生物基礎に
接続させているような構成です。
著者・編集者がよほど中学高校の
理科の内容を熟知していなければ
できないはずです。
これ1冊で中学校から
高校理科への橋渡しができる、
優れた内容の新書本です。
さすが岩波ジュニア新書。

(2019.2.22)

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